先に動いたのはエディーであった。
「インヴァイトヘル!!」
地中よりせり上がったドリルが、スレイヤーを突き刺さんとする・・・
しかし、彼はそんなに黙って待っている者ではなかった。
グンッ!ど姿が霞むほどの加速を、刹那にも満たない時間で完了させ、そのまま拳を突き出す。
「マッパハンチ!!」
ちなみにマッハではなく、マッパだ。それにどれほどの違いが込められているかはさて置き、ドリルをかわしたスレイヤーはすでに攻撃態勢のままエディーに突き進んでいた。
対し、エディーはすでに次の手段を取っていた。
「ブレイク・ザ・ロウ!!」
自らも影に一体化するように、エディーは体を影に沈めた。
厚さ数ナノの物体に変化した奴をスレイヤーが殴れるはずも無く、彼の体は働く歓声を止めるように動いた。
「ほぅ・・・頑張るじゃないか。その調子で頼むよ」
おどけるように、手を叩く。それはCにも覚えがあった行動だ。
恐らく、彼は戦いそのものを楽しんでいるのだろう。彼がそれ以外で闘う理由と言ったら・・・・・・
(・・・彼女、シャロンさんとか言いましたか・・・あの人しか考えられませんね)
事実、その通りであった。
富も、栄誉も、命すら彼が戦う理由にはなりえない。
妻を守るか、楽しめるか、それら二つぐらいしか、彼の戦う理由は無い。
―――と、エディーが漸く影の中から姿を再構成し、立ち上がってきた。
「・・・やるな、異種」
「何。すでに何十年も昔に引退した身だ。大した事は出来んよ」
とはいえ、吸血鬼はその生きた時間に比例して力が上がる・・・無論、物事には例外がつき物で、生まれたてでも異様な強さを持っている吸血鬼もいたりする。
「ほざくな・・・ならば確かめさせてもらうぞ!」
ごっ・・・・!と、力が渦巻く・・・その先はエディーの前。スレイヤーの立っている場所だ。
「ディナータイムだ!」
グオッ!!
影がスレイヤーの真下で巨大に広がる。
「なるほど・・・」
スレイヤーは動かない。この技は自分に通用しないと思っているのか、それとも・・・
「喰らい付けッ!アモルファス!!」
やがて影から召喚されるように現れたのは、人知を超えた鮫。
その大きさと言ったら、鯨とタメを張れるんじゃないかと思うほどだ。
そこで漸くスレイヤーは動いた・・・だが、間に合わない。
―――尤も、普通の人間なら、と言う但し書きが付くが。
ざっ!と一瞬にして、位置を変えるバックステップ。
そう、Cの黒鍵を避けるのに使われた、あの技だ。
"ダンディーステップ"
スレイヤーはそう呼んでいるが、その技の真髄は何も避ける事だけではない。
この巨大な影は、それ故に維持出来る時間が短い。
だから、逆算して、スレイヤーは影が消える時間に合わせて、攻撃に移れるようにDステップを使用した。
そう、盾となる最大の攻撃、アモルファスが消えた瞬間、彼はエディーに向かって突進攻撃を仕掛けていた。
Dステップから繋がる技の一つ、パイルバンカー。
まあ、相手を思いっきり殴りつけると言う技だが、先ほどのマッパハンチとは訳が違う。
まさしく音速を突き破りかねないパンチに、紫の炎が付随する。
影を主とする存在であるエディーにとって、この攻撃はかなりの痛手になった。
どてっぱらに穴が穿たれる。
それをエディーは急いで影で塞ぐと、スレイヤーを見やった。
衝撃のあまりエディーは膝をついてしまっていたので、必然的にスレイヤーを見上げる形になる。
昼間、吸血鬼の能力は下がるはずなのに―――エディーももちろん下がるが―――スレイヤーはまるでなんでもないように出鱈目だった。
やはり夜に来るべきだったか・・・そんな思いがエディーの頭を過ぎったが、それは出来ない。
すでに自分の体は限界だ・・・今晩まで持つか怪しい。
もはや仕方が無かった。そうしなければ、自分と言う存在は消えてしまっただろうから。
そんな逡巡の時間が、スレイヤーにとって最大の好機となった。