「・・・真正面からでは駄目・・・そして・・・」

あたえられた部屋で、一人ぶつぶつと何事かを呟くC・・・かなり怖いがその意識は、すでに現実には向けられておらず、今頭の中にあるのは、昨日・・・この城に来てから三日目の事であった。

一昨日(この城に来てから二日め)には、真正面からぶつかり、完璧といっていいほどの惨敗を喫してしまったCは、昨日奇襲という形で、再度攻撃を仕掛けた。

・・・が、これまた失敗。気配も絶ち、どこから投げているか確認も出来ていない状態のはずなのに、スレイヤーは攻撃をかわし、或いはいなし、或いは跳ね返し・・・兎に角、又もや一つとして攻撃を当てることなく、戦闘が終わってしまったのだ。

・・・ついでに言うと、カレーをまた食べ過ぎたりもしたが・・・一応無事に今日の日を迎える事が出来た。

今日は約束の四日目。

まあ、一日目鼻にもしなかったので、その次の日から始めたから、あと一日余裕がある。とでも言えばスレイヤーは承知するかもしれないが、Cはそんな訴えをしようとは、欠片も考えていなかった。

代わりに・・・・・・

「・・・まさか、これを使うことになるとは思いませんでしたが・・・・・・」

Cの手により、絶った今組みあがった、彼女の最終兵器・・・・・・

「真祖であろうとも・・・確実に滅ぼします。さあ、行きましょうか・・・・・・セブン」

不気味な黒光りを見せる埋葬機関が秘宝、転生批判の法典―――第七聖典―――

対吸血鬼の、最上位に並ぶ武器・・・それがとうとう、持ち出された。

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・これはまた随分と・・・厳つい物を持ち出してきたものだな」

誰が見ても、明らかなほどの兵器・・・それを目の当たりにしたところで、スレイヤーの表情はさほど変化しなかった。

あえて言うなら、片眉が二ミリほど上がっただけか・・・それもすぐに無くなる。

「・・・これに耐えられる吸血鬼などいませんよ」

徹して、冷たく言い放つC・・・スレイヤーはいつものように口に笑いを乗せた。

「そうか・・・最終日でもあるな、今日は・・・さて、フィナーレと行こうか」

ゆらり、と椅子から立ち上がり、シャロンにはここに待つように、Cには中庭の方に出るように言う。

そしてスレイヤーは、Cに背中を向け、堂々と中庭に向けて歩き出す。

廊下はほぼ直線。しかも今のところ曲がり角も無い。まさにCにとって千載一遇の好機といえた。

(やるなら今か!)

ぐっと聖典のグリップを握っている手に力をいれ、構えを取ろうとする――――――と、丁度その時、スレイヤーの方から声をかけてきた。

「そうそう。一昨日、私を狙うわけは、ここ一体の街を滅ぼしたから・・・と、君は言っていたな」

「・・・ええ。そのような輩と、よもや寝食を共にするとは思いませんでしたがね」

スレイヤーの言葉に返されたのは、氷の筵より冷たく感じられる、Cの声。

スレイヤーは背中を見せているため、確認は出来ないが、Cは何となく彼がまた笑っているような気がして、さらにイライラが増した。

「その事なのだがね・・・私には本当に覚えが無い・・・が、あるともいえる」

「・・・また、意味の分からないことを・・・!!」

ガシャッと音を立てて、第七聖典はスレイヤーに向けられた。

「何・・・じき、分かるだろう」

続けて、着いたな。とスレイヤーが言った。

確かに、いつのまにか中庭に到着していた。

「チッ・・・まんまと口車に乗せられてしまいましたか」

本当に悔しそうに悪態をついたCだが、すぐにその目をターゲット―――スレイヤー―――に固定する。

「全く・・・始めにこの城に来た時、何やら持っているとは思ったが、よもやそのような禍々しい物とはな。生まれて始めて見るな」

「これが禍々しく見えるのは、あなたの心が穢れているからですよ」

「そうか・・・では、君にはこれが神々しく見えると言うのだな」

「・・・・・・・・・・」

・・・重い沈黙。

先に破ったのは、やはりというか、Cであった。

「はあっ!!」

凡そ、大の成人男性でも、普通に持てるか怪しいほどの鉄の塊を、Cは軽々と振り回した。

・・・が、軽々とは言っても、常人に比べれば、の事であり、昨日の黒鍵を振るった速さに比べれば、あまりに鈍速すぎた。

「ふむ。それがいかほどの威力を持つかは知らぬ。・・・が、いかに剛の兵器であろうとも、それが当たらなければ、全く意味をなさないのだよ。君ほどの者が、その事を知らぬわけではあるまい」

少々侮蔑の意を込めた事を言いつつ、スレイヤーは聖典をかわした。

それは当然Cにとって予想通りの事だったのだろう。一昨日、昨日の反応速度を考えれば、猿でも分かりそうな当然のことだ。

それでもCは顔色一つ変えず、さらに聖典を振るう。

第七聖典は、細長い箱のようなものに、上にグリップ、横に引き金、前に杭のような物が付いているといった形態をしている為、攻撃をするには聖典の前を常に相手に向け、突進するしかない。

あまりにも直線的なため、それだけでも避けるのを容易にする要因となった。

よって二度目も空振り。

三度目も空振り。

四度目も空振り。

五度目も・・・

いいかげんにスレイヤーも焦れてきた。何度無駄な行動を繰り返すのかと。

「・・・やる気が無いのかね、君は。ならばこちらから打って・・・」

そこで初めてCは表情を変えた。

恐怖に怯えたのではない。かといって驚愕したそれでもない。

それは・・・・・・何か自分の企みが成功した時に、人が見せる喜びのそれであった。

「放出!!」

Cの声を合図に、至る所で空気が切り裂かれ・・・・・・次の瞬間には、スレイヤーの体が黒鍵によって逆剣山にされていた。

その場に相応しく無い表現をするなら、黒髭危機一髪、とかいうあのゲームの最終局面のようでもあった。

「な、なに・・・」

流石のスレイヤーも驚きを隠せない。たが、自体を理解したと同時に、彼に一つの影がかかった。

「・・・無様ですね。私が何の思慮も無く、あのような攻撃を繰り返したとでも?」

突き刺すような口調。それでいて、スレイヤーの左胸に聖典の杭の標準を合わせる。

「・・・なるほどな。あらかじめ張り巡らせた結界に、黒鍵を張り付かせておき、声を合図に一斉に放ったのか・・・いつの間に仕掛けたのやら」

「あなたが背中を見せていた、先ほどの瞬間ですよ。・・・まあ、ついさっきまでもそれを続けていましたがね。お陰で体に負担をかけましたよ」

「そうか・・・通りでな。あまりにも遅いので、何かと思えば・・・罠を作る為に魔力を割いていたか。それであれなら、素晴らしいか」

そこでCは、ハタと気が付いた。

これだけ絶望的な状況に絶たされながら、スレイヤーの顔には焦りなどといった物が見えない。

それどころか、あまり黒鍵も効いていないように見える。

いくら真祖の一人とはいえ、全く効かないはずはないだろう。これではまるで空気を相手にしているかのよう・・・

「・・・ふむ。気づいたかね?さて・・・」

するっ、っと体を透明にして、スレイヤーはCの背後に現れた。

「な、なんてインチキ!」

慌てて聖典を構えなおすCにたいした興味を示さず、スレイヤーは外の方を指差した。

「感じないかね?」

「・・・何を」

困ったお嬢さんだ、とでも言いたげに、スレイヤーは一旦目を閉じ、肩を竦めると、顔を引き締めてCを直視した。

「結界を解きたまえ。先ほどの答えがきたようだ」

「・・・・・・・・・・・・」

は?っと言った感じに口を開けたままCは固まった。

こいつは今何を言った?

結界を解け?

何を・・・

「何を馬鹿な事を!!」

「馬鹿と言うなら言いたまえ。まあ、この結界なら壊すのに十秒も掛からん・・・一応、君に反動外か無いように勧めたのだがね。忠告を無視するなら、私が気にする事ではない」

重心を低く構え、右手に力を練り出したスレイヤーを見て、Cは伊達や酔狂ではない事を漸く感じ取った。

「分かりました!解きますよ!!」

指が一回鳴らされる、それだけで結界特有の閉鎖された空気が無くなり、新たな風と・・・・・・邪悪な気配が流れてきた。

「あまり手間を掛けさせないでくれたまえ。それにもう一つ言うなら、自分が回りの状況を分かるような結界にしなければ、あまり意味がないと思うがね」

「余、余計なお世話です!!!」

元はと言えば、それほどの物を使う必要があったのはスレイヤーが相手の為だ。

普通の雑魚なら、人が気づかない程度の結界で、且つ回りの状況などすぐに分かる物を使うのだが、彼の場合は一味どころか十味は違う。

故に、回りの状況が分からなく鳴ろうとも、強度を重視した強固な結界を選ばざるを得なかったのだ。・・・スレイヤーにとっては、紙のような物であったらしいが。

「何をぼっとしているのかね。行くぞ」

「はいはいはいはい!!行けばいいのでしょう!!」

半ばやけくそでスレイヤーの後を追いかけた。

・・・歩みを勧めるにつれ、感じ取れる魔素が段々と濃くなっていく。

そして至る所に巨大な爪痕や、歯型があるのも見て取れた。

「これは・・・動物?・・・いえ、まさかこんなに巨大なものがいるはずが・・・」

ピーンと閃く物があった。それは考えたくも無い選択肢だったが。

「これほど巨大な動物を操るもの・・・まさか・・・二十七祖の一人、ネロ=カオス!?」

「いや、違うな」

即座に否定された。あまりに素早い突っ込みにCの方がこけ掛けた。

「ならば一体何だと・・・!!」

「あれだよ」

スレイヤーが指差したのは一人の男性。

何故か目を覆うように巨大な眼帯を巻き、体にフィットした服を着ているが、それなりに普通の男であった。

・・・ただ、その足元で影が蠢いていなければ。

その男歯スレイヤーを確認するや否や、声を上げた。

「貴様・・・人間ではないな。一体何者だ!」

スレイヤーも負けじ、言い返す。

「堕ちたか・・・惜しい男を亡くした」

とても感慨深そうに・・・目を細めて、スレイヤーはその男を見やった。

「・・・分かるかね、C君・・・これが、街を喰らった者の正体だ・・・」

「なっ・・・こ、この男が!?」

スレイヤーとCの会話を聞き、覚えがあった男は横から口をはさんだ。

「街・・・?ああ、この男と似たような生物が大量にいたところか・・・それなら、俺が全て喰らってやったぞ?ククククク・・・ハハハハ・・・アーッハッハッハッハ!!」

高笑いをあげる男・・・しかしその科白には、一つ不可解なものが混じっていた。

「”この男と同じ”・・・?」

「そうであろうな。今やおまえはザトーでは無い・・・禁獣が一、影獣のエディーなのだろう?」

「名前など、俺にとってたいした問題では無い・・・」

スレイヤーはそこで初めて、哀れなものを見るような目をすると・・・手を一薙ぎして衣装を変えた。

その衣装はまるで教会をおちょくっているのかと思われるほど。

ネクタイのような物には、もう一つ横に掛けられており・・・十字架を模したかのようであった。

そして両腕を包む長袖の外側には、これまた短い十字架のような形をした金属が張り付いていた。

「・・・ふざけてます?」

「いや。これが私の元々の戦闘服だ。さて・・・エディーよ。私が直々に引導を渡してやろう」

刹那、Cがこの三日間中一度も感じなかったほどの殺気が、スレイヤーから立ち昇った。

「ならば貴様を喰らってくれるわぁ!!」

エディーと呼ばれるものの足元の闇が、さらに昏さを増した。

――――――正に一触即発。

最強の聖典を中途半端に構えたまま、Cの動きは完全に止まっていた。

 

――――――!!

 

先に攻撃を仕掛けたのは・・・

 

1/スレイヤー

2/エディー

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