学園幻夢奇譚
プロローグ
妖しが騒ぎ出すに候
夢幻の戦士
桜が咲き乱れる4月。
彼女―――脇坂 詩織は満面の笑みを浮かべていた。
いや、実際に嬉しいのだ。自分の学力では到底入る事は出来ないと言われた、私立 新宮学園高校に入学できたのだから。
新宮学園は小学校から大学まであるマンモス校である。
そのレベルは高く、新宮学園の卒業者らがこの日本を動かしていると言っても過言ではない。
これに驚いたのは先生はもとよりクラスの仲間、友達、そして両親までもが飛び上がって喜んだ。しかし一番驚いていたのは、誰あろう詩織自身であった。何故こんな自分が選ばれたのか? 試験日当日は何があったのかさえ覚えていないほどパニくっていた。
解答用紙に何を書いたのかさえ覚えていない。
しかしそんな事はどうでも良かった。
自分の望んだ学校に入れるのだから、これ以上嬉しい事は無い。
(それにしても…このバスって学園の貸切かな?)
詩織は揺れるバスの中でそう思った。何しろ、バスの中にはヒトミと同じ制服を着た生徒がごった返していた。
やがてバスは『学園前』で止まった。
物凄い勢いで乗っていた生徒達が降りていく。詩織も流されるようにして降りる。いや降ろされる。
そして校門の前に立ち呟いた。
「すごい…」
目の前には校門があるだけだ。
(そうよね…、ここ、学校だよね…)
だが、それは校門というより巨大なアーチ型のオブジェに見える。
実は詩織は新宮学園に来るのは初めてだった。学校説明の時は中学の体育館だったし、試験のときはある大学の講堂を貸しきって行っていたのだ。
暫く見上げていたが、はっ、と我に返り周りを見回すと自分と同じように校門を見上げている生徒がいる。多分、詩織と同じ新入生だ。
『新入生の方々は、通路に居る引率の先生方に従って下さい。繰り返します、新入生の方々は……』
「大変。でも何処に…?」
通路は10人が一列横に並んで歩けるくらい広いそこを、無数の生徒が押し合い圧し合い進んでゆく。その中で先生だけを見つけるのはかなり難しいと言えよう。
「どうしよう、入学早々遅刻なんて嫌だし。」
ふと横を見ると、桜の木下に明らかに生徒ではない人影が見えた。
(あ! あそこに居る人に訊いてみよう、きっと先生だ)
駆け寄る詩織。
「あ、あの~」
恐る恐る声をかけてみると、陽気なハスキーボイスが帰ってきた。
「お、助かったー、いや~ここって広いもんだから迷ちゃって。アタシこの学校初めてなんだよね」
振り向いたその人物は、詩織と同じ女性であった。それもかなりの美人。詩織が知る中で、トップクラスに分類される美人であった。スーツを着ているから男性だと思っていた詩織は、急に恥ずかしくなり俯いてしまう。
「どうした? ああ、君は新入生か! ゴメンゴメン、てっきり上級生だとばっかり」
「あの、先生…なんですよね?」
「ン、まぁ新任だがね」
「あ、あの、脇坂 詩織です。宜しくお願いします!!」
「おいおい、行き成り自己紹介とは気が早いね。でも挨拶する事は善い事だ。申し遅れたけど、アタシの名前は恭子。高梨 恭子。独身。28歳。よろしくな」
「恭子ー! 何処~!?」
二人が自己紹介を終えると一人の先生が走って来た。中学学年主任・成沢 弥生だ。
弥生は恭子から事情を聞くと、近くにいた先生に詩織を任せると恭子を何処かに連れて行かれた。
詩織も同じように集合場所に連れて行かれてしまった。
〈ぐぎぎ、やってきたぞ〉
〈けけけ、新たな子らがやってきた〉
影の中で小鬼達が、楽しそうにケタケタと笑っている。
その笑いに誘われたように、学園の木々がざわざわと音を立てる。
廊下が、校庭が、そして学校全体が、まるで笑うかのように軋みだした。
何かを迎えるに。眠れる何かを起こすように。
今、新宮学園で、何かが起こる。
それを知る者は、まだ、誰も居ない……
皆さん、初めまして。知っている人はお久しぶりです。
夢幻の戦士で御座います。
実はこの作品、本当は短編だった筈が、どうした事か長編になってしまいました。短編を苦手とする私としてはやりやすいんですが、多分、更新は不定期になると思います。
ジャンル的にはホラー・アクションか何かになると思いますが、まだ始まったばかりなので何とも言えませんが。
もしメールを下さる奇特な方がいらしたら tokiwa35@hotmail.com にお願い致します。
最後になりましたが天竜様、そしてこれを見てくださった皆様方、以後宜しくお引き立てくださりませ。
天竜:このHP、三人目の投稿作家様、夢幻の戦士さんです。学園に巣食う妖しの正体とは? 彼女達は果たして無事でいられるのか?
次まで、暫し待ちましょう……。