******いんた~みっしょん******

・・・ゆさゆさゆさ・・・

「・・・ん・・・」

昨日神父服を来ていた女性―――流石に今は別の服になっている―――は、何かに揺さぶられる感触を覚え、意識を覚醒させた。

そこにあったのは、シャロンの顔。

女性の目が覚めたのを確認すると、花が咲いたような柔らかな笑みを浮かべ、窓際に移動し、空気を開放した。

・・・およそこの城の周りの雰囲気からは予想もつかないほど、爽やかな風が吹き込んできた。

だが女性はそんなことお構い無しにうなだれていた。シャロンが心配して突付いても特に反応はない。

”不覚”

そんな言葉が女性の脳裏を猫のように駆け巡っていた。

(よもや疲労が溜まっていたからとはいえ、敵陣のど真ん中で眠ってしまうとは・・・しかし、何時寝てしまった?)

そうして女性は昨晩の事に想いをはせた・・・・・・シャロンは女性の頬を突付き始めていた。

***

「・・・凄いですね」

―――と、女性が関心しシャロンが笑みを浮かべたとき、ノックの音が聞こえた。


いうまでもない。この城に現在存在する生命体は、三人だ。そのうち二人がここにいるのだから・・・

「ああ。そう言えば君のリクエストを聞くのを忘れていたのでね・・・」

「・・・リクエスト、とは?」

女性の目が細められる。少し、怖い。

しかしスレイヤーは全く揺るぎもしないで、質問を変えた。

「いや、先に尋ねるべき事がもう一つあったな。君の、名前はなんと言うのかね?」

「・・・先に自分から名乗るのが礼儀というものでは?」

スレイヤーが笑った。

「はっはっは・・・確かにな。我が名はスレイヤー。まあ他には・・・”異種”、”夜の王”などと無粋なものや、大げさな名前も付いておるがな・・・これで、良いかね?」

「・・・良いでしょう。しかし私の名は明かせません・・・あえて呼ぶなら、Cと」

しかしスレイヤーは案外冷静に、そうかね、とだけいって、別に怒ったりはしなかった。

「ではC君。今一度問うが・・・リクエストは何かあるかね?」

「・・・だからリクエストとは、なんの事ですか・・・!?」

女性・・・いやCはちょっと怒った。静かに怒った。

反面スレイヤーは冷静そのものだ。

「ふむ。リクエストと言ったら、一つしか思い浮かばないと思うが・・・君は違うのかね?」

「・・・!!・・・勝ったら私を拷問する気ですか?」

「心外だな。君は私がそんな人間に見えるのかね?」

「人間、ではないでしょう」

「それはな。重々自覚しておるよ」

Cは本気で思った。私はただ馬鹿にされているだけではないかと。

「それでは一体なんなんですか!?」

「夕食のメニューだよ」

・・・・・・

「はぁ?」

今度こそCは固まった。

 

***

 

「・・・ハッ!?こ、ここは!?わ、私は一体何を!?」

「今更何を言っているのかね」

きょろきょろとあたりを見回し、状況を認識しようとしたCだが、身体に対して真正面の方向からスレイヤーの声が聞こえてきたので、そちらに顔を向ける。

「君がカレーが好きだと言うので、シャロンが今調理場に向かったのだよ。自分の言った事ぐらいしっかり覚えておきたまえ」

「ああ、それはどう・・・も、って!何で知ってるんですか!私の好物を!!」

スレイヤーの顔が呆れたようなそれに変わった。

「まったく・・・だから言ったでは無いか。君が言ったのだ、と」

「き、記憶にありませんが・・・まさか、魔眼!」

自分でその記憶の隙間を埋める説明を思いつくと、Cはスレイヤーに攻撃的な目を向けた。

「・・・私は何もしておらんよ。私が”好物は?”と聞いたら、”カ、カレー・・・”と君が答えたではないか」

わざわざ口調まで真似して言ってくれやがった。

言われて見れば、そう言った気がする・・・Cの顔は真っ赤に染まった。

更にスレイヤーは言葉を続けた。

「なに。実を言うと私達もカレーにはまった時期があってね。わざわざインドとかいう国に向かって研究を重ね、香辛料の組み合わせなども独自に編み出したのだよ。そしてねかせれば美味しいという秘訣にこだわり、今百年熟成のカレーをシャロンが温めなおして・・・」

「お腹壊します。というかぶっちゃけ、死にます。即死です」

Cは突っ込んだ。最後にスレイヤーがとんでもない事をのたまわりやがったので、かつて人生でしたことのないくらいの速さで突っ込みを入れた

するとスレイヤーは驚いた表情を初めて見せた。

「・・・危ないかね?」

「どんな保管をしていたかは知りませんが、絶対に危険です」

子供でも保証出来ます、とも付け加えた。

「・・・ふむ。そうは言っても・・・ほれ、既に運ばれてきたようだぞ」

「!?」

漂い始めた重厚な味を感じさせる臭い・・・間違いなくカレーのそれである。Cにとって、いや誰にとっても見るまでもなく、明らかな事実である。

「わ、私はちょっと気分が・・・」

「冗談だよ」

Cは固まった。1.5秒後、再起動を果たした。

「はい?」

でもまだ分かっていなかった。

「冗談だと言ったのだよ。いくら私でもカレーを百年も寝かしたりなどしない」

そしてハッハッハと笑った。

ようやくCもからかわれた事に気づき、何処からか取り出した黒鍵を構えた。

「あなたは!!」

「まあ、そう怒るものではない。それに、そんな物騒なものは仕舞いたまえ。ディナータイムだぞ」

まるで祖父が孫をあやすかのように、優しく声をかけた。それが女性にとって、もっと頭に来た。

「そんなこと・・・!!」

関係ありません!!と言おうとしたそのとき、音がなった。

ぐきゅるるる~・・・

クックック、とスレイヤーは笑い、Cはあまりの恥ずかしさに前髪で顔が隠れるように俯く。

(なんでこんな時にお腹が・・・)

人間の三大欲求のうち一つ、食欲はどんな時にでもある、とCは今更ながらに思った。

丁度その時、扉が開き、臭いの元を載せた台を引いて来たシャロンが現れた。

 


 

カチャッ・・・カチャッ・・・と、シャロンが手際よく食器を並べていく音だけが支配する空間。Cは相変わらず俯いたままであった。

シャロンはそんなCの様子を怪訝な表情で見ていたが、自分の仕事はきっちりと済ませた。

「・・・シャロン。君もこっちに座りたまえ・・・さて、ではディナータイムといこうか」

コクン

シャロンが頷くのを見るとスレイヤーは両手を胸の前に持っていき・・・おもむろに・・・

 

「頂きます」

 

ゴカアッ!!

Cがこけた。上はその音だ。

「な、な、な、なんでそこだけ日本式なんですかぁーーー!!」

紳士然とした態度をとり、様式風に料理を並べていったにも関らず、挨拶だけ反対側の国。

Cでなくともビックリ・・・いや、突っ込みたくなるだろう。

「いや、君の反応が確かめたかったのでな」

「・・・全く」

Cは祈りを捧げ始めた。何故か、スレイヤーやシャロンも同じようにしているのが、少し気に触った。だが何とか全力で意思を抑制し、祈りを終える。

だがここで、見守るような目つきのシャロンを除き、二人は気が付くべきだった。

カレーが”尋常ならざる色”になっているのを・・・

「!?」

・・・後は、押して知るべし。

「シャ、シャロン・・・ま、まさかこれは・・・本当に百年ねかせたのかね・・・?」

なんか苦しそうに喋るスレイヤーの声が聞こえたが、チャ~ンス、と思う暇も与えられず、Cの意識は沈んでいった。

 

***

・・・ダラダラダラダラ・・・

嫌~な汗が、頭と言わず体中に流れる。

どうやら記憶を追っていくと、自分がベットに入った記憶がない。

(思い出さなければ良かったかも・・・)

後悔後先たたず。Cの気持ちとは裏腹に、昨日の記憶がしっかりと蘇ってしまった。

そこで、頬に鋭い痛みを感じ、ようやくCは意識を現実に戻し始めた。

うにゅ~・・・

「はに、ひへふほ?」(なに、してるの?)

ぴた・・・・・・うにゅ~・・・

声をかけると一度止まった頬引っ張りだが、またすぐに再開された。

「っへ、ひゃへ~い!!」(って、やめ~い!!)

シャロンは引き剥がされたのに、まだ手をわきわきと動かしていた。それどころかまたCに降り直り、じわじわと近づいてきた。気にいったらしい。

Cはこのとき、今まで大体の吸血鬼にすら抱かなかった感情をシャロンに対し覚えた。

人、それを恐怖と呼ぶ。

(なんかこの人・・・ヤバい?)

嬉しくも何とも無いが、それはこのとき大正解であった。

跳んだ、シャロンが。擬音が付くとしたら、ニャ~ン♪、だろうか。それとも、不二子ちゅわぁ~ん(はぁと)、って感じだろうか。どっちも本当に人がやると怖いことこの上ない。

「・・・わあああぁぁぁ!!」

Cは代行者として恥ずかしき、逃げを取った。

(戦略的撤退!)

心の中で呟いている事はかっこいいが、実際誰が見てもただの逃走であった。

 

***

 

「ふむ。やはり退屈せずに済みそうだな・・・あのようなシャロンを見るのは久々だ」

楽しいのはこの城の主とその伴侶のみ。Cにとってそれは災難この上なかったと言う事を追記しておく。

 


 

「ちょ、ちょっと!私の出番がこんなんでいいんですかぁ!?」

了承(一秒)

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