ぼくたちは、恋していく。

By KEN







「シュウちゃん、あの・・・ジュース買ってきたんだけどー」

「お、わりぃ」


ぼくの彼女、ちせ。
ちせはかわいい。
だけど、ドジっ子でチビで気が弱い奴だ。
口癖は「ごめんなさい」で、座右の銘は「強くなりたい」。
すげぇ、不器用な奴だってぼくは思う。


「あ・・・」

「?・・・あぁ、フルーツの方は、お前のか」

「あ、ううん・・・どっちでも」

「いーって、いーって」


ぼくは相変わらず不器用な接し方しかできない。
もう少し、ちせに優しくしてあげれたら・・・と思う時が多々ある。


「ん・・・おめぇー、またケガしてんじゃねーか」

「あ」


恥ずかしそうに顔を少し赤くして膝を両手で隠す。
その動作が少しかわいく見えたのは内緒だ。


「おめー女の子なんだから、気ぃつけろや」

「うん、ジュース買った後転んじゃって」

「ドジ」

「あ・・・う・・・ごめんなさい」


少し涙目になる。
あぁ、またやっちまった。


「・・・保健室行くべや」

「あ・・・うん、行ってくる」

「アホ、またおめー一人で行ったら転ぶのがオチだ。一緒に行ってやるよ」

「・・・ありがとう」


涙目だったのに、すぐに嬉しそうな顔に変わる。
現金なヤツだ。
・・・だけど、少し嬉しかった。













「あ、シュウジ!ちせを連れて何処行く気?」

「保健室」

「あ、ちせを連れ込んでやらしー事する気だわ」


廊下を歩いているとアケミがいた。
あたしとシュウちゃんに気づき、アケミがニヤニヤと笑いながらシュウちゃんをからかいにきた。
多分、事情はわかってると思うけど、少し恥ずかしかったりする。


「ち、違ぇーよ!こいつがケガしたから連れてくんだ!」

「へぇ~、それを口実にねー」

「だから、ちげーつってんだろ!」


シュウちゃんも顔を真っ赤にしている。
それが、少し面白かった。


「シュ、シュウちゃん・・・あたし一人で行くよ・・・」

「い、いや・・・わりぃ。このバカ女の所為で」

「む!」

「ほれ、行くべ」

「う、うん。じゃ、じゃあ・・・後でねアケミ」


あたしの手を引っ張っていくシュウちゃん。
強く握られた手が少し痛い。
だけど、少し嬉しい・・・。






























「あれ、保健のせんせーいないじゃん」

「ホントだ・・・。どうしよう?」


自慢じゃないけど、あたしは不器用だ。


「しゃーねー、オレがやってやるよ」

「シュウちゃんできるの?」

「まぁ、これでも陸上部だかんな。生傷はたえねーって。おめーはそこに座ってろ」


シュウちゃんが指差した茶色いイスに私は静かに座った。
そして、シュウちゃんの後ろ姿を見ている。


「あれ、バンドエード、デカイ奴ねーじゃん。しゃーねー、包帯にすっか」


そういって、包帯を手にとって、後は消毒液を染み込ませた綿とピンセット、それと包帯を止めるテープ。
・・・しみるんだろうなぁ。


「シミっぞ」

「う・・・うん」


ポンポンとピンセットで掴んだ綿を私の膝にあてる。
消毒液の匂いと、しみて、少し涙が出てしまった。


「う・・・」


痛いのは仕方ないけど、予想していたけど思ったより痛みを感じた。
・・・そんなに酷く転んだっけ?


「よし、消毒終わり」


そういって、乾いた綿でまたポンポンと軽くあてた。
風が来るたびにすっと何だか膝が冷たかった。


「これから、ホータイ巻く事多くなりそーだな」

「う・・・ごめんなさい」

「だから、いーって」


丁寧にあたしの膝に包帯を巻いていく。


「よし、シューリョー」

「あ、ありがと」

「ん・・・。これから、どーする?」

「あたし・・・?」


どーしよー?
思わず辺りを見回してしまう。


「あ・・・」


思わずベッドの方を見てしまった。
アケミに言われたから、少し意識しちゃってるなー。


「ん?・・・あ、アホ!」

「ご、ごめん」

「ん、んじゃあ、オレは屋上に戻るから」

「うん」

「おめーはどーする?一緒にサボるか?」

「ううん、あたし、セーセキ悪いから」

「そっか。じゃあ、また後でな」

「うん」


シュウちゃんは、そういってそそくさと保健室から出ていった。
少しかわいく見えたのは内緒だ。
あたしは、少しの間、ぼーっとしていた。
膝に巻かれた包帯を見つめる。
案外、怒りっぽい彼に似合わずきっちりと巻かれていた。


「あは・・・」


少し嬉しかったりする。































教室に帰ってきた。
ちょうど、休み時間も終わっていた。


「おかえりー、ちせ」

「あ、うん」

「自習だってこの時間」

「そーなんだ」


アケミにそう言われると少し残念な気がした。
そんな事ならシュウちゃんと一緒に授業サボればよかった。


「そーいえば、ちせは第一志望何処にしたー?」

「あ、ソレ今日まで?アケミは何処にしたの?」

「あたし?あたしは近くの短大。ちせは?」

「あたしは・・・、あたしはねー、シュウちゃんと同じ大学に行こうと思って」


そう言うとアケミの顔が一気にしらけた。
色ボケだとか思ってるのかな?


「・・・・・・。いーけどシュウジ、意外と頭いーぞ。国立だったよ、進学先」

「え!?」

「あんたじゃ、ムリ」


し、知らなかった・・・。
シュウちゃん、頭よかったんだ・・・。
授業サボって頭いーなんてサギだ。
ちゃんと、授業を聞いているあたしは、なんでセーセキよくないんかなー?


「・・・やっぱり、あたしサボるね」

「ん・・・。はいはい、行ってらっさーい」


少し悔しいからシュウちゃんのとこに行こうと思った。
どーせ、自習だし。
ベンキョーなんてするとは思えないから。













「寝てる・・・」


屋上に出ると、目についたのがシュウちゃんの寝転がった姿だった。
よく見ると眼鏡を外している。
だから少しイメージが違う。
少し子供っぽく見えたのは内緒だ。


「あたしも隣に寝ていーんかな?」


寝てる本人には分からないと思う。
小声で言ったのは確か。


「膝枕はしよーと思ったけど膝痛いから・・・」


そういって隣に寝転がった。


「ちせ・・・」

「は、はいっ!?」


思わず起き上がってシュウちゃんの顔を見た。


「・・・寝言?」


どーやらそうみたいだった。
少し嬉しかった。
自分がシュウちゃんの夢の中にまでいられるのだから。


「・・・ドジ」


コケッ。


そんな擬音が心の中で出しながらあたしはコケた。
う・・・夢の中まであたし、ドジなんかなー?


「もぅ・・・」


デコピンをシュウちゃんのおでこにする。
ペチッと思いのほかいい音がした。
乾いた音もその場に響く。


「ん・・・な、なんだぁ?」


シュウちゃんが目をこすりながら起き上がる。
あ・・・ごめん、起しちゃった。


「ごっ、ごめん・・・起しちゃった・・・」

「ん・・・いーよ、別に」

「ごめんなさい」

「いーって、そーいや、授業は?」

「自習」

「そーか」


そう言うとシュウちゃんはぼ~っと空を見上げた。
あたしもそれにつられる。


「・・・雲おっきーね」

「そーだな」


屋上だからか、良い天気、良い温かさ、良い風をより一層感じた。


「そーいえば、シュウちゃんって頭いーんだね」

「・・・なんだ?薮から棒に?」

「あたし、シュウちゃんと同じいこーと思ったんだわ、・・・ムリそうだわ」

「んー、あんま意識した事ねーわ」


頭をかいて困った顔をする。


「ちせの場合は効率悪いんじゃねーか?」

「?」

「シューチューしようとしてもすぐに途切れるとかな」

「・・・あはは、当たりー」


すぐにパニック状態になるあたしの脳。
ホントにベンキョーの時はすぐにプスンだ。


「ノートも見てねー口じゃねーのか?」

「うん」

「一度読み返してみろ、8割はわかると思うべ」

「うん」

「それと・・・」


シュウちゃんはそっぽを向いた。


「一緒にベンキョーしてやるよ」































「学校終わんな」

「うん」

「帰りは、どっか寄ってくか?」


ぼくはちせに聞く。
ん~っと・・・と、口元に人差し指をあてて、考えている。
その様子がなんとなく可愛い・・・。


「そうだっ」

「ん・・・」


何か閃いたようだ。
・・・少し嫌な予感がする。


「あ、あたしの家に来てよ」

「・・・いーけど、何しに?」

「え~っと、ベンキョー」

「・・・マジか?」

「あ、あはは、お茶は出すわ」

「しゃーない、邪魔させてもらうべ」


少し覚悟を決めた。
・・・今、ここで気づいていれば、ぼくは平和な世をすごしていたと思う。
・・・少なくとも、もう少し。
まぁ、あまり劇的な変化は世にはないけど・・・。


少し自分の事がはんかくさく思える。












「ちせの親父やお袋ってどんな感じの人だ?」

「お父さんとお母さん?」

「ああ」


何気に聞いてみる。
もしコワイ人達だったらぼくは逃げ出すだろう。


「お母さんは優しくてちょっときびしー人」

「へぇ・・・」

「お父さんは・・・割と古い考えの人」

「・・・そーか」


何となく怖くなった。
もしかしたら、ぼくはちせの家の敷居はまたがせてもらえないかもしれない。


「シュウちゃん・・・だいじょーぶ?顔色が少し悪いよ?」

「・・・なんでもねーよ。だいじょーぶだ」


やはり顔に出ているみたいだ。
自分でも何となくわかっていた。
こりゃ・・・ヤバイかもしれない。












「ただいま~」

「おかえり、ちせ。・・・あら、お友達?」


ちせが家のドアを開けて『ただいま』と言ったらすぐにちせのお袋さんが出てきた。
パッと見、ちせに似ている感じがした。
なんてゆーか、大人版のちせみたいだ。


「えと・・・この前話したシュウちゃん・・・」

「あら、じゃああなたがちせの彼氏?よかったじゃない、ちせ!カッコイイ彼氏じゃない!」

「え、えへへ」


ちせのお袋さんがそう言うとちせは照れ臭そうに笑う。
・・・カッコイイ?
・・・誰が?


「あ、私、ちせの母です。不出来な娘ですが、これからもよろしくお願いします」

「あ、いや・・・こちらこそ」


ちせのお袋さんはぼくにおじぎをした。
ぼくも慌てて返事をして、ぼくも頭を下げた。
なんか、すっげぇ動揺してる。


「ちせ・・・さんにはいっつも世話になってて・・・」

「しゅ、シュウちゃん・・・」

「うふふ、ちせ、良い人ね」

「うんっ」

「さぁ、上がって上がって」


ちせのお袋さんがぼくとちせを家に招き入れる。
少し気が楽になった・・・。


「それと、シュウジ君、ちせの事は普段の呼び方でいいわよ」

「あ、はぁ・・・」


・・・って、言えねぇよな・・・。












そして、ぼくはちせの部屋に招かれた。
なんでだ、ビミョーに緊張するのは?


「・・・えらい、ぬいぐるみが多い部屋・・・だな」

「あっ、ごめん。・・・そこら辺に座っててテーブルとってくるから」

「いーよ、俺が行くから・・・で、何処だ?」

「んっと・・・一緒に行くね」


そういって、ぼくたちが部屋から出ようとすると・・・。


「ねーちゃん、机持ってきたよ!」

「あ、カズヤ、ありがと」

「あー重かった・・・」


・・・ちっちゃなガキが机を持って登場した。
きっと、ちせの弟なんだろうな。


「あ、シュウちゃん。ショーカイするね、あたしの弟のカズヤ」

「・・・そーか、机ありがとな」

「いーよ、別に!うわー、ねーちゃんの彼氏ってカッケーなー」

「・・・?」


ちょうどぼくは立ち上っていたのでちせの弟はぼくを見上げる格好になっていた。
なんだか、憧れの瞳をしているのは気の所為・・・だろうか?


「シュウ兄ちゃん、うちにきなよ!ねーちゃん、シュウ兄ちゃんの家にあげるからさ!」

「あ、あはは・・・そっか?まぁ、また今度な」

「うん、約束だぜ!」


そういってちせの弟は出ていった。


「・・・もぅ・・・」


ちせは少し拗ねていた。
その様子を見て、ぼくは少し笑ってしまった。
まぁ、ちせの家族で二人にも気に入られたみたいだ、一応良いスタートだ。












その後、ちせの親父さんが現れて少しぼくをおどろかして・・・。
それで、いろんな事が起きた・・・。


それは、また今度の話で・・・。


Fin


後書き


はぁ、すっかり根負けしました。
なんとなく、ちせの父親の姿が浮かばなかったので次回に・・・(汗

天竜:ちせのお父さん……ドキドキしますね。一体どんな方なのでしょうか。

before:ぼくたちは、恋していく

next:ぼくたちは、恋していく 「ちせの親父」

KENさんへ

SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu