ぼくたちは、恋していく。

By KEN






ぼくと彼女の通う高校は、この長い坂にある。
登りきると眼下に日本海を臨む。
鬱陶しい、観光客もここまでは滅多に来ない。
そして・・・ぼくは坂を登りきって自分の街を見下ろせる・・・この場所が密かに好きだった。


・・・・・・つーか、それ以外は全部キライだった。


この景色がなかったら、ぼくはここに来なかっただろう。
きっと、高校だって別の場所に行っていた。
誰が好き好んでこんな場所には来ない。
誰がつけたんだか、この坂には『地獄坂』ってふざけた名前がついている。
モチロン、これは通称じゃない。
ホントの地名だ。
イナカで札幌まで出ないと何にも楽しい事のないこの街・・・。


「はぁ・・・シュウちゃん!・・・はぁはぁ・・・」


ぼくの後ろから・・・。
つまり、この長い坂をのろのろと登り終えたヤツ。


「・・・あのーなまらのろくないか、ちせ?」

「はぁ・・・はぁはぁ・・・ごめん・・・ごめんなさい」


・・・ちせはかわいい。


だが、のろい。
チビだし、気が弱い。
おまけにドジっ子で成績も中の下。
世界史だけが無意味にいいけど、ちせが生きていくのに何のプラスにもならない。
・・・その事をちせ自身もよく知っていたし、自覚しているのだろう。
口癖はさっきも言っていた・・・「ごめんなさい」
座右の銘は「強くなりたい」


・・・なんだか不器用なヤツだと思う。


「だからおめー、やっぱ明日からバス通に戻せよ」


気遣ってんじゃなくて・・・。
ただなんていうか・・・。


「早起きしてさ」

「うん、ごめん。・・・はぁはぁ・・・でも、やっぱ一緒に登校しないと・・・」

「・・・なんでだ?」

「私、シュウちゃんの・・・彼女だから」


ちせが、「つきあってください」と告白してきたのは五日前。
でも、ぼくはいまだいわからないでいる。


「バカ!」

「えっ・・・?」


・・・しまった。


「オレは、こないだまで陸上部だったから、こんな坂、急いで登りゃ遅刻しねーですむんだよ」


・・・違うんだ。


「でもおめーはのろまだし、だからムリなんだよ。遅刻しちまうんだよ」

「・・・ごっ、ごめんなさい」


違うんだ。


また、やっちまった・・・。


「い、いや、いーんだけどさ・・・」






ホントに言いたかったコトバは、こんなコトバじゃなくって・・・。






























「「「アホじゃねーの?」」」


ぼくは、自分で言っちゃなんだけどサボり組だ。
最近はより一層授業をサボっている気がする。


・・・まぁ、仲間がいてこそできる事だ。


「・・・そーか?」

「またちせちゃん、泣かしたんか?朝っぱらから・・・」

「いや・・・泣いてねーと・・・思うけど・・・」

「嘘だ」

「うっ・・・」

「オレ見たぞ。シュウジの右斜め後ろで、顔真っ赤にして涙をためてるちせちゃんを!」

「坂登った所為だって!驚くほど体力ねーんだ、アイツ」


・・・だから・・・。
・・・だからムリはしねーでいいぞって。
ぼくは大丈夫だからって、ホントはそう言いたかったんだ。


「・・・わかんねーんだ・・・オレ。つきあうって一体どーすりゃいーんだ?」

「「「はぁ?」」」


唖然とする馬鹿三人組み。
・・・くそっ、ぼくだって・・・。


「たとえば一緒に映画行くとかさー」

「・・・この街に映画館ねーだろ」

「札幌まで行けよ」

「しょっちゅう行けっか」

「じゃ、遊園地とか」

「・・・ふざけんな。水族館の方がいーだろ」

「やっぱ基本にかえっておしゃべり・・・」

「オレ、無口なんだわ、バカ」

「「「・・・まずはその口の悪さをどーにかしろ!」」」

「・・・うっ、なんだよ」


・・・確かに口が悪いのは自覚している。


「第一つきあうって、そーゆー事なのか?そんなの友達でもできるべや」

「「「オレ達をそんなやましい目で見るな!」」」

「・・・見てねって」


思わずひきながら言った。
はぁ・・・そんな考えに至るお前たちがすげぇーよ。


「・・・まぁ、男女がつきあうってさー。健康な男子としては・・・セッ『『わーやめろーっ!』』

「お子さんが聞いてたらどーすんだ?」

「そーだ。昼間っから!」

「どっから聞いてるって?」


・・・・・・。
てめーら、自分は彼女いねーくせに、なんでそんな一生懸命なんだ・・・?
・・・まぁ、悪い気はしんねーけど。












「「「ばっかじゃねーの?」」」

「ごめんなさい・・・」

「あんた、天下の女子高生が『つきあうってどーすれば』だって・・・」

「ちせ、あんたなんでも謝るのやめなさいよ」

「やっぱつきあうって形じゃないし・・・」


・・・言いたい事、言っちゃってるなぁ・・・。
三人とも熱くなっちゃって、口はさめない・・・。


「そーそー、気持ち通じ合えれば、何もいらないってゆーかー」

「黙ってても一緒にいるだけでネ!」

「うん、そーそー」


・・・はぁ。
あんたら彼氏いないのに、その自信ぷりって・・・。


「でも、やっぱさ、お年頃の女の子としてはさ、セックスかな?」


アケミが拳をつくって、親指だけをあげる。
遠くから見れば別に大した事のない動作・・・。
だけど、近くにいると、コトバと言う新しい情報も手に入るから別の意味になる。


なんの悪気もない笑顔のアケミがなんだか怖い。
・・・でもそうなのかな?


「・・・わかった、やってみる!」

「「「やめとけ!」」」






























「シュウちゃん!」


最近は、ちせと一緒に帰る事が多くなった。
これで連続三日。
つきあって五日なのに、なんだか昔からやってる感じに思えた。


「あの・・・これ・・・」

「?」


ちせから手渡されたノート。
表紙を見て、少しひいた。
ちせ曰く交換日記らしい・・・。
女が使うデザインのノートを今手に持っている事にぼくは、少し抵抗を感じた。
他のヤツには見られたくない。


・・・またあいつらにそそのかされたな・・・?
思わずちせの顔を凝視してしまった。
ちせの表情を見て・・・駄目とは言えなかった。


「・・・・・・。しゃーねぇ、やってやるよ!」












家に帰ってからも、なかなか日記を開けれなかった。
ぼくにも照れというものがある。
恥ずかしいに決まっている。
意を決して中を見てみる。






・・・か、かわいい・・・。


普段は無口なちせんが、そこではホントに楽しそうに・・・。
ぼくにいろいろな出来事を話してた。
まるで・・・。
まるで、ちゃんとフツーのつきあってるふたりのように・・・。
ぼくはちせに何ができるのだろう?












この街はイナカだ。
観光地と水族館と自衛隊しかない。
こんな小さな街で、ぼくは恋愛に悩んでる。
そんなぼくにとって、ニュースでやってたデカイ会社の倒産とか・・・。
戦争や・・・。
交通事故も・・・。
だからなんだっつー話です。
ちせはぼくの何処がよくて、一緒にいるのだろう?


「おめー、漫画ばっかよんでっとバカになんぞ」


ぽろっと言ってしまった言葉も・・・。
ぼくの口からではいいコトバにはならない。
ちせを傷つける事しかできない。


「ごっ、ごめん!」

「あ・・・いや、いーよ、ゆっくり読めよ・・・」


悪気はないんだ。
いままで話してきた女のタイプとは違うんだ、ちせは。






「じゃーなー」

「あっ・・・うん」


少し残念そうな表情のちせ。
一体どーしてだ?


「あ・・・これ、渡しとく」

「あっ・・・ありがと」

「・・・中は家帰ったらな」

「うんっ・・・わかった!」


嬉しそうに帰っていく。
小さな後ろ姿。
何となくスキップしているように見える。
喜んでいるんだと思う・・・。


でも・・・ぼくの書いた日記の返事は最悪な返事だ。






























「シュ、シュウちゃん・・・なに?こんなとこで?こんな時間に?」


丘の上の展望台。
そこは、ぼくの二番目のお気に入りの場所。
特に気に入っているのは夜中にここで星を見る事だ。
だから・・・ちせにはこれを見せたかった。
オレしか知らない・・・多分、オレしか知らないと思う。
・・・ちせには・・・今、ぼくの事をどう見ているだろう?












シュウちゃんどーしたんだろう?
こんな人気のない所に、なんで・・・?
なんか・・・今日のシュウちゃん、いつにも増してコワイ。
まさか・・・。






『え~、日記返ってきて、それで終わったぁ?』

『うん・・・』

『ま、あたしがシュウジでも嫌だしね』

『う・・・』

『で、展望台に来てくれっても書いてあったわけだ』

『うん・・・なんでだろう?』

『そりゃ、展望台と言えば人気はないし!雰囲気いいし!もしかしたら・・・』

『な、なに?』

『ちせ、パンツ大人っぽいのにかえた方がいいよ』






・・・一応、か、かえてきたけど・・・。


「ちせ」

「え・・・あ、あの・・・」

「ん・・・」


シュウちゃんがある方向を指差す。
そこには・・・。


「きれい・・・」

「そーか?」

「うんっ」


ここはイナカだ。
そのおかげで星がよく見える。
だけど、ここの景色はもっと凄かった。
星が本当にきれいに見えた。


「ありがと、シュウちゃん!私、こんな場所知らなかったよ!」

「ん・・・よかった」


シュウちゃんの笑顔がなんだか・・・少し怖かった。


「最後にこれが見せれて・・・」

「え?」












「わりぃ。オレ、もう疲れた」

「!・・・っ・・・ぅっ・・・っく・・・」

「っ」


・・・くそ。
なんで、いっつもオレはこーやって人を傷つけて・・・。
なんでもっと・・・うまくできないんだ?
なんで?


「あたしだって・・・疲れたよぉ!」


涙を流されて・・・。
最後には怒られて・・・。


「つきあうってどーゆー事かわかんなくって友達とか漫画とかで勉強して!」

「・・・・・・」

「だけど、ぜんぜんわかんなくって、うまくできなくて!」


あ・・・。


「もとはと言えば、シュウちゃんお所為だからね!」

「な、なんでだよっ!」

「あ、あたし、もともとシュウちゃんとつきあう気なかったもん!」

「え?」

「ただ・・・度胸だめしで・・・」


少し胸が苦しくなった。


「弱い性格直したくて、アケミたちにけしかけられて・・・。ダメもとで告ってみろって・・・」

「・・・あの女ども・・・」

「なんでOKしちゃうの!?あたしなんかの何処がよかったのよぉ!」

「・・・顔」

「え?」

「だけ」

「だけぇ!?」

「・・・ああ」


なんせ、ぼくはちせを知らなかった。
まずは容姿からだ。


「ひどーい!」

「ひどいのはそっちだ!」

「・・・っ!」

「ぼくだってつきあう気なんて、なかった!だけどおめーがかわいーから!」


声を荒げるぼく。
少し喉が痛くなった。


「・・・ちせ?」

「・・・ぼく?」

「・・・・・・・・・あっ」


ちせが目を丸くしてぼくを見つめる。


「わ、わりーかよ。直んねーんだ、なかなか・・・」

「シュウちゃん・・・」

「だってよ・・・子供ん時から使ってたんだ。うまくかえれねーよ」

「・・・かわいい」

「は?」

「あはは。あは、ごめん!シュウちゃん、かわいいっ!」

「て、てめーの方がかわいーんだよ」


思いっきり笑われて、恥ずかしかった。
だけど、少し嬉しかった。
ちせが笑ってくれた。


「ごっ、ごめん。あはは、ごめん。こわかったのあたし・・・シュウちゃんの事」

「・・・ちぇっ」


そうか・・・。
ぼくらは、ただ不器用に同じ星の下でぐるぐると・・・。












「オレ、つきあってからはじめて、ちせの笑った顔見た気がする」

「っ・・・あたしも・・・」

「もしかしてさ・・・つきあうって、こんなんだったかなぁ?」

「・・・うん、そーかも」


・・・もっと早くこんな時間に気づいていれば・・・。
そしたら・・・。
そしたらあたしたちは・・・。
終わらずに・・・。


「・・・オレら、まだ彼氏彼女だよな?」

「・・・うん」

「あのさ・・・順番違うけど・・・折角だから、これから好きになってみねぇ?」

「・・・ぅっ・・・ぅ・・・うんっ」

「そっか・・・ありがと」

「・・・じゃあ、じゃあ!こ、これ・・・」


あたしは持ってきた鞄からあのノートを取り出した。
一瞬こわい顔したけど・・・。


「・・・いいよ。やるべ」

「じゃ、じゃあ・・・あたしは何したらいい?」

「え・・・・・・キス・・・?」

「・・・うん、わ、わかった!する!」

「ん・・・」












ぼくたちはこの場所から・・・これからはじめようと思った。
ただ不器用に・・・。
立ち止まったり、引き返したり、歩いてみたり・・・。
こんなふうに好きになって行こう。
イナカのこの街で、なに一つ楽しい事はないけど。
バカだし不満ばっかで。
なにひとつ将来のこともわからなくて。
でも一つだけ二人で決められたから。


ぼくたちは、恋していく。


Fin


後書き


どうもKENです。
血迷ってこんなものを書いてしまいました。
はぁ・・・最近、LASをまったく書いてないのが少し後ろめたいです。
どないしよう(汗

続きが書けるように頑張りたいと思います。
私は痛い話は書けないので、多分ちせが改造される事はないと思いますが・・・(汗
それでも、よろしければ今後ともよろしくです。

ですが、私はエヴァの小説が本業であるため、だいぶ間隔が空いてしまうかもしれませんが・・・。
どうか、気長に待ってください。

もし、何か私に一言物申す!と何か言いたい事がある方はこちらにどうぞ。
誤字脱字、感想も受け付けております(笑

では。

天竜:KENさん、どうもありがとうございます。本編の良いところが生かされ、実に素晴らしい内容でした。またのご投稿をお待ちしております。では。

next:「僕らは相変わらずこんなんです」

KENさんへ

SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu