アルトリアBy KEN



衛宮 士郎は、自分が物分りの良い方だと思っている。
割り切れるようにしていた。
彼女の事にしたって、最初からそうなるのが結末だと割り切っていた。
遠坂にだって、そう言った。
区切りもつけた。

昔の生活に戻るだけだった。

お互いにとってそれだけの事。
それが自然な事。

オレは昔と同じように生きる。
朝は桜と交代で朝食をつくる。

そう言えば、桜も大分明るさが戻ってきた。
流石に、自分の兄、慎二がいなくなってしまったが事が堪えたみたいだ。
それを癒してくれたのがイリヤでもある。
イリヤは、自分の故郷に帰らず藤ねえの家に厄介となっている。

で、毎日のように藤ねえとイリヤも招いての朝食。
日中は学校…。
学年が変わり、勉強する場所も少し難しくなる。

生徒会の手伝い、バイト。
一成曰く、ご臨終した機械を蘇生している。
バイトは主に荷物運びとか…。

夜は鍛錬…。
未だに強化しか上手く出来ない。
才能のなさがよく分かる。
というか、成功率が聖杯戦争の前の時と同じくらいになった。
緊張が解けたというか、やる気がなくなったのか…。

だけど、これは…。

ずっとオレ自身であり続けようとした事。
泣いたり、落ち込んでいたら彼女に心配を掛けるからだ。

 

 

 

 

 

 

アイツが消えてから二ヶ月が過ぎた。
オレは、進級していた。
なんの因果かは知らないけれど、藤ねえがまた担任だった。
と、言うか見知らぬ顔の生徒は一人もいない。
ただ、学年が変わっただけと言う感じだ。


「衛宮…どうしたんだ最近?」

「…一成か」


放課後の教室に残っているのは、オレとコイツくらいだ。
他のみんなは部活動に勤しんでいる。
そう言えば、弓道部も大会が近づいているみたいだからピリピリしているな。
激励に言った時、美綴に戻って来いといわれた。
だけど、そんな気にはなれなかった。
アイツも駄目もとらしく、素直に引き下がってくれたが…。


「手伝いか?」

「いや…最近、衛宮が何時にも増して呆けているのでな」

「…」


こういう時、腐れ縁って辛いな。
オレの事、なんでもお見通しなんて。
隠し事なんて、あってないもんだ。


「どうした?この二ヶ月…進級してから酷いぞ」

「そう…かぁ?」

「…まぁ、色々あったからな。人生日々平穏と言う訳にはいかないらしい」


そうだな…。と心の中で同意した。
ホントに、二ヶ月前はいろんな事が起きた。
元より、魔術師なんて裏の人間な事を始めたのだ。
日々平穏なんて望めないのは分かっていた。
だけど、オレの場合は波が一気に来た感じだ。


「そう言えば、セイバーさんは元気か?彼女も間の悪い時に来てしまったからな」

 今でも胸を締め付ける。 オレを愛していると言った。 彼女の最後の言葉は今でも覚えている。 もう、二度と会える事のない…。 オレは、彼女と別れた…。 黄金色の日の出…。 セイバーがどうなったかは、オレしか知らないもんな。 ドクン…と心臓が高鳴った。
 
「アイツなら帰ったよ」

「ふむ……。なるほどな」

「なるほど…て、なんだよ?」

「いや、お前が呆けてる理由が分かったからな」

「む…」

「まぁ、今生の別れじゃない。日頃の行いを良くしていれば、また再会出来るだろう」

 ……。 だけど、オレ達はそれを拒んだ…。 単純に、純粋な力と考えれば、人一人くらい受肉出来そうだと思えた。 実際、聖杯って願いを叶えられなかったのだろうか? 本当にそうなら、オレは…。 そうなれば、どんなに良い事か…。 一成はそう言った。

「ふむ…そうなると、今日の朝でお別れだったのか。挨拶でもしておくべきだったな」


…一成の言葉が引っかかった。
何だ?
セイバーは二ヶ月前に消えたんだぞ?


「え…どういう意味だよ?」

「いやな、お山から降りてすぐに交差点があるだろう?そこから橋の方へ行ったぞ」


頭が真っ白になる。
アイツが…生きてる?
身体が震える…。

オレは気づいたら教室から飛び出していた。
全速力で学校を出る。

 

 

 

 

 


「はぁ――はぁはぁ――くっ、はぁ――」


駆ける、駆ける駆ける…。

人は全速力をどのくらい保てるだろう?
それは、十分もない筈だ。
でも、気持ちの問題だ…。
火事場の馬鹿力と言うような物に近い。


「はぁはぁ――くっ、はぁ――」


『頑張った奴は、頑張った分だけ賞賛が贈られる』とオレは言った。

だけど、アイツの場合はどうなんだ?
史実通りに死ぬだけ?
オレはそんなの許さない。
やっぱり、止めればよかった…。
自分勝手な言い分なのは分かっている。
でも、言わずにはいられない。
これが、自分の最後の願いでいい。
自分にとってのこれが最後だ。

走る走る走る…。

息を切らして、我武者羅に…。

橋を渡る…。

期待に胸を高鳴らせる。

はぁはぁ…と息が苦しくなってくる。

酸素が欲しい…。

でも、辺りを見回したい。

白と金の彼女を見つけたい。

 

 

 

 

 


……誰もいなかった…。
他の場所を探す気はなかった。
この場所しかないからだ…。
ちゃんと言葉を交し合ったのはここだ。

橋…。

近くにある公園…。

それぐらいだ…。
思い浮かぶ場所がない…。


「……」


元々、期待をしてはいけない願いなんだ。
中身が空っぽのオレには叶えられる事のない夢。
何もかもがどうでもよくなる。
芝生に倒れこむ。
空は茜色をしている。
きっと、桜達が晩飯の用意をして待っているだろう。
あの場所には戻らないといけない。

だけど、アイツ等はオレの事をよく知っている。
何かを誤魔化すのも、隠すのも、アイツ等には簡単にバレる。
だから、落ち着くまで待たないといけない。

目を閉じる…。

一度、寝てしまおう。

そうすれば、落ち着く。

風が気持ち良い…。

 

 


『…風邪をひきますよ、シロウ』

 

 


こんな幻聴が聞こえてきた。
眠りとは、どんなに優しいものなんだ。
こんなに優しいと帰ってこれなくなるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「……ん…すっかり夜だな」


目を覚ました時は、もう真っ暗だった。
うわ、もう一番星どころじゃない。


「起きましたか、シロウ?」


ぬ…また、幻聴だ。
好きな人の声が聞こえる。
マジでオレ、ヤバイのか?


「……」

「シロウ?」


空が見えなくなった。
だけど、幻であの少女が見えた。
頭がおかしくなったのか?
それとも、今まで無理しすぎてお迎えが来たのかもしれない。
幻は、オレを心配してるみたいだ。
神様もセイバーの顔を見せてくれるなんて粋なサービスじゃないか。


「セイバー…」

「はい」

「最期に顔が見れてよかった」


その瞬間、バチンと言う音と衝撃が伝わった。
数秒経って、叩かれた事が分かった。
…無茶苦茶痛い…。


「痛っ…」

「目が覚めましたか?」

「あ、あぁ…」

「なら、起きてしっかり気を持ってください」


少し呆れたような、怒ったような、拗ねているような表情で言う。
オレは慌てて体を起こす。
…セイバーが膝枕してくれてたみたいだ…。
だから、傍から声が聞こえたんだよな…。
む…少し顔が赤くなってきやがった…。
そう言えば、頭の辺り少し温かかったし…。
本当にセイバーみたいだ…。


「セイバーなのか?本当に?」

「はい、私は貴方の剣になると誓った者です」


穏やかな笑顔。
透き通るぐらい澄んだ瞳。
あぁ…本当に彼女だ。


「セイバーっ!」


オレはセイバーを抱きしめた。
小さな彼女の身体を放さまいと力を込める。

 

 


「――シロウ」


暫くセイバーを抱きしめていた。
セイバーもおずおずとだが、背中に手をまわしてくれたので嬉しかった。


「…何?」

「その…恥かしいです」

「…そんなのオレだって」

「なら…」

「だけど、放したくないんだ」

「…ズルイです」


もう一度、力を込める。
セイバーも力を込めてくれる。
…ま、周りの奴らなんて気にするもんか。
いいんだ、普通にバカップルって事で。


「何時…どうやって、こっちに来たんだ?」

「…五日ほど前です。…原因は、夢を見たんです。シロウ達の事を」


セイバーは静かに話し出す。

 

 

 

 

 


『アーサー王!』


部下の中で信用していた、べディヴェールの声も遠のいていく。
私は、もうすぐ夢の続きを見るようだ。
誰にも邪魔されることなく。
臣下の足音が遠ざかっていく。
きっと、私を埋葬してくれるのだろう…。
そのための準備か…。


『…お主はそれでよいのか?』


声が聞こえた…。
折角、静かになったのにな。
私は、まだ眠れないらしい…。
静かに目を開ける…。


『…マーリン…お主か』

『久しぶりよのぅ。まさか、久しぶりの再会がお主の最後だとわのぅ』

『ふ…常に死と隣り合わせだった身。何時、そうなってもおかしくなかったであろう?』

『ふむ…王よ。別の世界は楽しかったようじゃな』

『な…』

『そこで、好きな男も出来たようじゃな。十数年経っても、お主は少女よのぅ』

『……』

『戻りたいか?』


魔術師の言葉に私は、驚いた。
そんな事、出来るはずがないと思った。
だが、この魔術師の目は真剣だった。


『術があるのか?』

『無論…。ワシを誰だと思っておる?愛を説く魔術師なるぞ』

『……』

『もう一度、問う…戻りたいか?』

『…はい』


その瞬間、私の視界が光に包まれた…。

 

 

 

 

 

 

セイバーの話だと、彼女の育ての親の手によって、この世界に送り込まれたらしい。
魔術師・マーリン…彼は彼女の世界で最高の魔術師だった。
それは、現代の比じゃない力だ。
だが、一つ些細な問題が生じたらしい。
彼女の手には、宝具がなかった。
史実通り剣は湖の中に沈んだ…。
鞘は、彼女の傷を治し、余った力を使いマーリンは彼女を違う世界に送った。
実際、彼女の傷はすぐに癒え、マーリンの大魔術もすぐに行われた。
だが、時間軸が少しズレた所為でオレと別れてから二ヶ月後にやっとこの世界に戻ってこれたらしい。


「…シロウ」

「なに?」

「私は…貴方の剣になると言いましたが、この身はもう、人並みにしか力がありません」


申し訳なさそうに言う。
オレは、気にしない。
と、言うか…セイバーを守れる立場になれそうなのが嬉しい。


「オレは、セイバーさえいれば構わない。たとえ、力がなくなっても…セイバーはセイバーだ」

「シロウ…」


セイバーは顔を上げてオレを見つめる。
う…カワイイ…。
うわ…手が勝手にセイバーの頬に…。
顔近づいてるし…。
口が勝手に…。


「私は貴方を愛しています」

「…オレも…セイバーを愛している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ウチへの帰り道、オレは幸せで不安だった。
セイバーは隣にいる。
恥かしげに顔を赤くしている。
くそぅ、カワイイじゃないか。


「あの…シロウ」

「何?」

「私はもう、セイバーではありません。役割に左右されずこの世に入れます。出来れば真名で呼んでくれませんか?」


手を胸に当てて言う。
確かにそうだ。
セイバーは役割の時の名だ。
もう、その名で呼ぶ必要はない。


「ん…分かった。…その、アルトリア」

「はい」

「早く帰ろう。藤ねえ達を説得しなくちゃな」

「はい」

 

 


で、思いの他、説得は上手くいった。
多分、オレの様子が変わった所為だろう。
セイバー…アルトリアがいない間、やはりどこかがおかしかったんだ。
アルトリアと帰って来た時の様子を見て、藤ねえは笑みをこぼした。
桜も少し複雑そうな顔をしていたが祝福してくれた。
イリヤは、何か意味深な笑みを浮かべていた。
きっと、明日辺りにからかってくるだろう。
なんか、居心地の良い時間だった。

で、現在、妙にオレはどきどきしてたりする。
ウチに何か理由をつけて泊まるかと思ったみんなは潔く帰っていった。
実質上…二人っきりだ。
ぐぁ…緊張してきた。

てか、微妙に夜遅いし…。
もう、考える時間がないじゃないか。
取り敢えず、オレの部屋の隣に布団敷いといたけど…。
いいのか?
…いい筈だ。


「シロウ」

「っ!……お、おう。ふ、風呂出たのか」


しどろもどろになる。
風呂上りで妙に色っぽいアルトリア…。
変に意識してしまう。


「はい、良いお湯でした。それで…その…今日は、………にしてくれませんか?」

「…え?」

「だから…寝る場所を…一緒に…」


顔を真っ赤にして俯く。
寝る場所…って…。
一緒って…。

た、確かに…さっきキスは…したけどよぅ…。
何か、テンポ早すぎだ。
思考回路が暴走しかけている。


「駄目でしょうか?」

「え、いや…その…」


オレは言葉に出せず、首を縦に振るしかなかった。
アルトリア…その目は反則だ。
何てか、魔眼でも持ってるんじゃないのか?
…女の子にはそんなのがあるのか?

 

 

 

 

 


「えっと…身体、布団からはみ出してないか?」

「はい、大丈夫です」


結局、布団を一組…。
そこで、一緒に寝ている。
落ち着かない。
妙に手足が冷えているような…。
汗かいているような…。


「その…さ、アルトリア」


…何となく場が持たないので、気になった事を質問する。
これは聞いておきたかった。
少し、矛盾点があったからだ。


「なんですか?」

「なんで五日間、すぐにオレのトコに来てくれなかったんだ?」

「…それは…」


言いづらそうにしている。
む…やっぱり禁句だったかな?


「あ、いや…言いたくないなら言わないでいい」

「……恥かしかったからです」

「ぇ?」

「どの面をさげて、あんな別れをしてしまった貴方に会えば分からなかった。虫が良すぎると思ったんです」

「……」

「きっと、貴方を傷つけてしまった。あんな軽はずみに大切な言葉を言ってしまったんです。それが許せない」

「アルトリア…」

「結局、我慢出来ず貴方の前に現れてしまいました。触れたかった…」


アルトリアはオレの寝間着の袖を掴む。
少し自棄的な笑みも浮かべている。


「…馬鹿だな、お前って」

「――な!?」

「オレだってお前の顔見たかったし、触れたかった」

「ですが…私は騎士です。騎士として、約束は守らないといけない…」

「――騎士の前に女の子だろ?」

「……はい」

「うん…オレ達は会っていいし、触れていいんだ」


オレは満足そうに頷きながら言った。
と、言うかオレはこうじゃないと許さない。
すると、アルトリアは…。


「…シロウ…」

「…ぉ、おい、どうした?」

「シロウ…シロウ…シロウ…シロウ」


アルトリアはオレの腕に顔をうずめ、何度もオレの名前を呼んだ…。
じわりじわりと肩のとこが湿っていく。
そっと、空いている手で彼女を抱きしめた。

あぁ…今日は、衛宮士郎にとって最高の日だ。
空っぽで望みなんてないと思っていた。
だけど、オレにもあったのだ。
この少女と共に歩みたいと言う。
それが、オレの最初で最後の自分の願いなのだから。


Fin.


後書き


えっと、初めてのFate SSです。
まだ、アルトリアの個性が出し切れてないので精進あるのみです(´д`;)
やっぱり、アルトリア最高ですヽ(´ー`)ノ

 

 

 

 

 


おまけ♪


「なんだ、今日は元気だな」

「ん、一成か」

「ん、一成かじゃない。今日はえらくご機嫌じゃないかと言ったんだが…」


確かに、オレは朝からご機嫌だ。
朝の面倒なSHRも気にしない勢いだ。
と、言うか…弁当も無茶苦茶気合が入っている。
二段重ねの弁当なんて、何時ぶりだろう?


「あ、いや…まぁな」

「ふむ…。まぁ、衛宮の事だ。割と単純な事だろう」

「あのなぁ」

「ん、藤村先生が来たな。席に戻らせてもらう」


一成が席に戻ると、オレは滅多に集中しない藤ねえの方を見た。
そこには、オレを見てニンマリとする藤ねえの顔があった。
あぁ、オレは覚悟が出来てるぞ。
さぁ、来いっ。


「転校生を紹介しまーす。入ってきて!」


一人の小柄な少女。


「自己紹介お願い」

「…アルトリア・ペンドラゴンです。よろしくお願いします」


その時、小さく…オレに…『シロウ、これからよろしくお願いします』と言っていた。

天竜:思い出すなあ。

アヤメ:何を。

天竜:セイバールートの最後、こういう感じのがあるんじゃないかと思ってたんだ。

アヤメ:ふーん。

天竜:スタッフロールが流れても希望を捨てなかった。

アヤメ:まあ、あっさり裏切られたわけだけど。いいんじゃない、FD出たし?

天竜:そうだなあ。

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